アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
したくなければ別に結婚する必要はない。この時代、妻がいなくても遺伝子だけ残す方法だってある。

――何が嫌なんだ?

幸せな家庭をイメージしようとして目を閉じると、ふいに飛香の泣き顔が浮かんだ。

――そういえば。あの時、飛香は一体なにを思って泣き出しのだろう?

『僕の子供の頃から得意技教えてあげようか?』

あの話は咄嗟についた嘘だ。

いつでも涙を流す特技などあるわけがない。そもそも泣くくらいならさっぱりと負けを認めるほうがいいに決まっている。なぜなら次の機会に、倍の形で勝てばいいのだから。

だから、あんな風に涙を流したことはもちろん、涙を人に見せたことも初めてだった。
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