アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
――それにしても何故だ。あの琴の演奏を見ながら、なぜ飛香は突然泣いたのだろう。忘れた記憶となにか関係があるのだろうか……。

鈴木が言っていた話をふいに思い出した。

『彼は、飛香さんを不良から助けたことがあるそうですよ』

――燎か?
ヒーローが登場したシーンを飛香は覚えていた?
だとすれば、燎が恋人を連れていることをどう思ったのか。

そんなことを考えるうち、洸は飛香に靴を渡そうと思い立った。

濡髪でバスローブを羽織っただけの恰好だが、リビングや廊下で何度もこの姿を見ている彼女は許してくれるだろう。
渡すだけなのだから問題ない。

いつの間にか見合いのことなど忘れた洸は、早速靴の入った紙袋を持ち、廊下を進んだ。
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