アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
それを聞いた途端、洸は肩の力が抜けて一気に楽になった。

父はいずれにしろ、母が見合いのことを知るか知らないかでは全く違う。話が上手く進めばいいが、期待をさせてからがっかりさせるのは想像しただけで気が重い。

「じゃ」と答えて電話を切ろうとすると、
『今夜、飛香さんの琴を聞かせて頂きました』と、アラキが言った。

「いいでしょ、飛香の琴」

『ええ、とても胸を打つ素晴らしい琴でした。では』

電話を切った洸は、瞼を閉じて琴を奏でる飛香を思い浮かべる。
心を温めそれでいて切なく、時に哀しく。普段の明るい彼女からは想像もできない飛香の琴。

――あの子は我慢しているもの全てを、音に変えているのだろうか……。

最後にもう一度だけ、飛香の弾く琴を聞きたいと思った。
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