アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
ふたりが向かった先は北の対。

北の対の簀子には、夏とはいえ壺庭の遣水から涼しい風が吹いている。

「大納言さまと結婚なんて嫌です」

冷たい甘酒で喉を潤しながら朱鳥から事情を聞いた蒼絃は、母には私から言っておくから大丈夫だと朱鳥を慰めた。

「結婚なんかしなくても、このまま家にいたらいい」

「それでは兄君に迷惑をかけてしまうでしょう。私は舞師になって自立するの」

「迷惑なんてことはないさ、朱鳥がいないと寂しい。
 まあ朱鳥ならいい舞師になれるとは思うが」

「そう思ってくれる? ふふふ。私、舞師になってちゃんと禄(給料)を頂くの」

希望に満ちた瞳を輝かせる朱鳥を見ながら、蒼絃は小さく微笑んだ。

口には出さないが、蒼絃にはわかっている。

舞というよりは踊りといってもいい朱鳥の舞が、宮中で受け入れられることはないだろうと。
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