アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
「帰らないで、ずっとここにいたらいい」

そう言いながら、飛香の頬に手を伸ばそうとしたその時だった。

コンコン
沈黙を破るノック音が響く。

いつだって邪魔というのは肝心な時を狙って来る。洸は溜め息をついて、伸ばしかけた手を下ろした。

「お兄さま」

「洸、具合はどうなんだ?」

入ってきたのは飛香の兄碧斗とアラキだった。

「あぁ、もう下がったよ。お迎えご苦労さん」

起き上がった洸はうぅーっと唸りながら上に腕を伸ばす。

「お土産に。とてもいいワインを頂きました」

「そ、ありがとね」

「じゃあ、あとで改めて会いに来る。お大事に」

碧斗はそう言って、さあ、と飛香を連れて部屋を出て行った。

廊下に一歩出たところで振り返った飛香は、深々と頭を下げて、ニッと笑顔を作り、そっと手を振った。
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