アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
そこにいるはずの洸の母とサワの姿がない。

「もう行ったの?」

「ええ、今頃ニューヨーク行きの便に乗った頃だと思います。洸さまがよくお休みになっていたので、よろしく伝えてとおっしゃっておりました」

「そっか。すっかり男所帯になってしまったな」

「ええ。火が消えたように」

飛香がこの家を出たのが昨日。
更にこの家で暮らす女性二人がいなくなったとなれば、邸に残るのは洸とアラキ、通いの使用人のみである。
他に警備員はいるがむさくるしい男に違いなく、華やぐとは言えない。

「寂しいですね」と鈴木が言った。

「ま、いいんじゃないの。静かで」

洸が言ったその答えは強気なわりに力はなく、負け惜しみのように空しく響いた。
< 208 / 330 >

この作品をシェア

pagetop