アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
電話を切り、 背もたれに体を預けた洸はホッと一息ついた。

胸のモヤモヤは消え、心の平穏が戻ったところでまたスマートホンを手に取った。

新たに連絡先を登録するのは、アラキから渡された飛香の電話番号。
早速メッセージを送ってみる。

『アドレスに登録したよ。明日はお昼には帰れないから会えないと思うけど、がんばって。おやすみ、飛香。 西園寺洸』

メッセージの返事はすぐに返ってきた。

『登録ありがとうございます。がんばります。おやすみなさい。 飛香』

予想を限りなく下回るシンプルな返事である。


――短い。短すぎる。

もう一言あってもいいだろう?
たとえば。会えなくて寂しいです、とか、洸さんもがんばってくださいね、とか、たとえば……。

ふと頭に浮かんだ文字に我ながら呆れた洸は、左右に頭を振って溜息をつくとソファーから立ち上がった。


――馬鹿げてる。

時間を惜しむようにスーツを脱ぎ捨て、バスルームに向かうと頭から勢いよくシャワーを浴びた。

ありえない妄想を水に流そうと水量を強くしてみたが、強い水音の中で返事までもが思いつく。

『好きです、洸さん。夢の中で逢いましょうね』

『好きだよ、飛香。君を抱いて眠りたい。この腕に抱いたまま――』

――どうかしている。

でも、どうしようもない。

打ちつけるシャワーの雨は、胸に籠った熱を冷ましてはくれなかった。
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