アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
あきらかに仕事をしているらしい洸を見て、アラキは微かに苦笑した。

せっかく休んだというのに、朝から資料を広げてパソコンに向かっている。休んだからにはのっぴきならない仕事があるわけではないだろうに、この状況は若い独身男性としていかがなものか?アラキは内心、首を傾げる。

だが本人はそれについて何の疑問もないのだろう。黙々と画面と資料を見比べている。

不意に思い出す彼の少年時代。

当時十九歳のアラキは、ブラジルのサンパウロのしがない八百屋で働いていた。

仕事の関係でしばらくサンパウロに滞在していた西園寺家は上客で、野菜を届けに行くのがアラキの仕事だったのである。

両親が日本人なので日本語が話せることもあったし、陽気なアラキに洸が懐いた。

アラキは一人っ子だった。更に言えばその三年前、マフィアの抗争事件に巻き込まれて両親は亡くなり天涯孤独の身の上だったのである。
そんなアラキにとって洸は弟のような存在であり、西園寺家での洸との会話は楽しいひと時だった。

洸はいつも何かしらの勉強していた。教師がいることもあるが大概はひとりである。

『友達と遊べなくて、つまらなくないのか?』
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