アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
そう聞くと、当時九歳の洸は大真面目に答えた。

『僕には、西園寺グループの社員たちの幸せを守るシメイがあるんだ』

『へえー、大変だな。でもそんな人生でいいのか?例えば明日死んだらどうする?もっとこうすればよかったとか思ったりするかもしれないぞ』

『ホンモウだよ』

「ホンモウ? なんだそりゃ」

血は日本人とはいえポルトガル語やスペイン語に馴染んだアラキには、知らない日本語だった。

親が残した薄い辞書をひいて知った『本望』という言葉。アラキは辞書を閉じてゴロリとソファーに横になり、フッと口元を歪めた。

九歳の少年がどこまで言葉の意味を理解していたのかはわからないが、それでも彼は少年らしい純粋さで、『彼らの幸せを思いながら死ねるのは本来の願いだ』と本気で思っていたのだろう。

人は彼のことを、道を外すことなく純粋培養されてすくすくと育った真面目な御曹司と言うが、そうではない。
彼には道を外れる暇などなかったのだ。
誰よりも勉強し、体を鍛え、センスを磨き、人を見る目を養う。全ては勝つためであり、人々の幸せな暮らしを守るためだった。

近くで見てきたのだから、痛いほどわかる。
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