アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
アラキの左腕には、深い傷跡がある。昨日たまたま掃除の手順を教えてもらった時、まくった袖からチラリと見えた。もしかするとその傷はその時のものなのかもしれないし、他にも同じような傷があるのかもしれない。
今、目の前でなんでもないことのように話す彼からは想像できないが、話の中で省かれた部分はどれほど壮絶だったのだろう。
それでも明るいアラキの笑顔に、そのまま明るく答えなければいけないと思った飛香は「アラキさんすごい!」と言いながらパチパチと両手を叩いた。
「ありがとうございます」とアラキもクスクスと笑う。
「洸さんはその時、一滴の涙も流しませんでした」
「え? 九歳の子供なのに?」
「ええ、口に貼られたガムテープを剥がした時、『僕は死ぬのか。まだ何もしていないのに残念だ』と憮然としていましたよ。ムッとしてそう言ってました」
それには飛香も思わず笑った。
「洸さんらしい」
「助かったとわかると『助けてくれて、ありがとう』ってニッコリ笑いましてね。
今でもよく覚えています。
その頃から彼は全く変わっていません。まっすぐな瞳で、逃げ隠れすることなく何事にもきちんと向き合う。そんな男です」
今、目の前でなんでもないことのように話す彼からは想像できないが、話の中で省かれた部分はどれほど壮絶だったのだろう。
それでも明るいアラキの笑顔に、そのまま明るく答えなければいけないと思った飛香は「アラキさんすごい!」と言いながらパチパチと両手を叩いた。
「ありがとうございます」とアラキもクスクスと笑う。
「洸さんはその時、一滴の涙も流しませんでした」
「え? 九歳の子供なのに?」
「ええ、口に貼られたガムテープを剥がした時、『僕は死ぬのか。まだ何もしていないのに残念だ』と憮然としていましたよ。ムッとしてそう言ってました」
それには飛香も思わず笑った。
「洸さんらしい」
「助かったとわかると『助けてくれて、ありがとう』ってニッコリ笑いましてね。
今でもよく覚えています。
その頃から彼は全く変わっていません。まっすぐな瞳で、逃げ隠れすることなく何事にもきちんと向き合う。そんな男です」