アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
あの日。
荘園の一角に大きな桜の木があった。
その時期にしては遅咲きのその桜は満開をちょうど過ぎた頃で、
風が吹くたびにあたりは花吹雪に包まれた。
風に舞う花びらと一緒にくるくると回って遊んでいると、そこに現れた小さな子供の猪。
『一緒に踊る?』
つぶらな瞳が可愛くて思わず近づこうとすると、突然大きな猪が姿を現した。
獰猛に光る眼。恐れおののき、驚きのあまり逃げることもできず立ち尽くしていた朱鳥の前に、ヒヒーンという鳴き声と共に一頭の馬が飛び出してきた。
馬上の公達が弓をつがえ猪に向け矢を放つ。
何本か続けざまに打った後、馬を下りた彼は、『大丈夫か?』と朱鳥の前に屈んだ。
『猪は死んでしまったのですか?』
『いいや、脅かしただけだから、死んではいないよ。
今は子育ての時期だから、猪の母親は気が立っている。気をつけて』
ホッとすると、今更のように涙が溢れてきた。
家の者が探しに来るまで、束の間ではあったが公達と話をした。
別れ際、馬に乗ってまさに走り出そうとする背中に『お名前を』と聞いた時、彼は振り返って何か言ったが、その声は『朱鳥さまー』という声と重なり聞こえなかった。
荘園の一角に大きな桜の木があった。
その時期にしては遅咲きのその桜は満開をちょうど過ぎた頃で、
風が吹くたびにあたりは花吹雪に包まれた。
風に舞う花びらと一緒にくるくると回って遊んでいると、そこに現れた小さな子供の猪。
『一緒に踊る?』
つぶらな瞳が可愛くて思わず近づこうとすると、突然大きな猪が姿を現した。
獰猛に光る眼。恐れおののき、驚きのあまり逃げることもできず立ち尽くしていた朱鳥の前に、ヒヒーンという鳴き声と共に一頭の馬が飛び出してきた。
馬上の公達が弓をつがえ猪に向け矢を放つ。
何本か続けざまに打った後、馬を下りた彼は、『大丈夫か?』と朱鳥の前に屈んだ。
『猪は死んでしまったのですか?』
『いいや、脅かしただけだから、死んではいないよ。
今は子育ての時期だから、猪の母親は気が立っている。気をつけて』
ホッとすると、今更のように涙が溢れてきた。
家の者が探しに来るまで、束の間ではあったが公達と話をした。
別れ際、馬に乗ってまさに走り出そうとする背中に『お名前を』と聞いた時、彼は振り返って何か言ったが、その声は『朱鳥さまー』という声と重なり聞こえなかった。