アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
今更だが、心のどこかにそんな気持ちがあったのではないか?
ふとそんなことを考えてしまうのだ。

「それを言うなら、そっくり返そう。僕は君が蘭々と結婚する日が来ると、学生の頃から思ってたよ」

鈴木は、ウッと息を詰まらせた。
忘れていた。学生の頃、洸がそんなことを言っていたことを。

「――不毛でしたね」

「ああ、その通り。蘭々がこの話を聞いたらさぞかし怒るだろうな」

「ですね、引く手あまたな彼女に失礼でした」
蘭々に対してはもちろん洸に対しても申し訳なさで一杯になった。
ーーどうかしていた。
しきりに反省しつつ、コホンと軽く咳をして、鈴木は手にした書類に目を落とす。

そんな鈴木から視線を外した洸は、立ち上がって窓際から空を見上げた。
「ただ、思ったことがないわけじゃないよ。
世の中の多くの男のように、僕にとっても彼女は憧れの女性だから」

つぶやくようにそう言った洸の後ろ姿を見つめながら思う。

ーーよかったですね蘭々。
彼のその気持ちに、蘭々の初恋は救われたに違いない。

そんなことを思いながら、鈴木は心の中のなにかが、霧となって昇華されていくのを感じていた。
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