アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
「頭の中将がですか?」
「ええ、先の帝の姫さまなんですよ。
先日伺ったんですが、大変お美しい姫さまでいらっしゃって、若君とはとてもよくお似合いで」
――え?
動揺に喘ぐ胸にそっと手をあてて、朱鳥は気を静めることに集中した。
荘園の君が頭の中将だと決まったわけじゃない。
そう思いながら。
「そうでしたか、それはおめでとうございます」
それから先はどんな話を聞いても、頭の中をただ通り抜けるだけだった。
しばらくすると、ボーンと寺の鐘が聞こえた。
兄との約束の時間である。
途中、案内の女房と別れ御簾の中を静かに進んでいくと、ふたりの男性の微かな話し声が聞こえた。
先を進むに従い、声はどんどん近づいてくる。
ひとりは兄の蒼絃だ。
もうひとりの声は若々しい男性の声であることから頭の中将かもしれないと思った。
さらに近づくと、こちら側に顔を向けている兄が見える。もうひとりの顔は見えない。
「ありがとうございます」と言っているのは蒼絃。
外に面した簀の子にいるふたりは、御簾の中にいる朱鳥からよく見えた。
向こう側からはこちらが陰になり見えないことはわかっているが、とっさに几帳の陰に隠れた。
「ええ、先の帝の姫さまなんですよ。
先日伺ったんですが、大変お美しい姫さまでいらっしゃって、若君とはとてもよくお似合いで」
――え?
動揺に喘ぐ胸にそっと手をあてて、朱鳥は気を静めることに集中した。
荘園の君が頭の中将だと決まったわけじゃない。
そう思いながら。
「そうでしたか、それはおめでとうございます」
それから先はどんな話を聞いても、頭の中をただ通り抜けるだけだった。
しばらくすると、ボーンと寺の鐘が聞こえた。
兄との約束の時間である。
途中、案内の女房と別れ御簾の中を静かに進んでいくと、ふたりの男性の微かな話し声が聞こえた。
先を進むに従い、声はどんどん近づいてくる。
ひとりは兄の蒼絃だ。
もうひとりの声は若々しい男性の声であることから頭の中将かもしれないと思った。
さらに近づくと、こちら側に顔を向けている兄が見える。もうひとりの顔は見えない。
「ありがとうございます」と言っているのは蒼絃。
外に面した簀の子にいるふたりは、御簾の中にいる朱鳥からよく見えた。
向こう側からはこちらが陰になり見えないことはわかっているが、とっさに几帳の陰に隠れた。