アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
「ここで待っていてね」

「はい」

朱鳥は海未にここで待つよう耳打ちし、ひとりでその場を離れ彼らに近づいた。

――もう少し近づけば、公達の顔が見える。

「昔、周防国にある荘園に向かう途中、ひとりの姫に会ったことがある」

公達の話し声がはっきりと聞こえた。

「猪に襲われそうになったその姫を助けて少し話をした。
今どき珍しいほど生き生きとした姫でね。
私はひと目で気に入ったんだが、先を急いでいたし、姫にも迎えが来た」


今公達が話をしているのは、まさに自分のことではないか!?

胸を高鳴らせ、屏風の端からそっと覗くと……。


間違いなかった。

――荘園の君……。


その精悍な目元には、あの日の少年の面影が残っている。

何度も夢に現れた荘園の君その人だ。
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