アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
それから両手の指ほどの日が過ぎた頃。

頭の中将が北の方を迎えるという話が都を駆け抜け、朱鳥の耳にも伝わった。

「それに比べて我が家は蒼絃といい朱鳥といい、まったく」

何も知らない母はぶつぶつと愚痴を言うが、
母や家の者に気づかれないようにと、朱鳥は笑って聞き流している。

時は流れ、
春が過ぎ、梅雨が明けて久しぶりに青い空が晴れ渡ったある日、
しばらく留守にするとどこかに出かけていた蒼絃が、幼子をふたり抱いて戻ってきた。

「わたしの子だ」

二歳になる女の子と男の子の双子は、自分の子だと蒼絃は言った。

蒼絃の話では母親はふたりを産んだ後、長く患っていたが帰らぬ人となったという。

見ればふたりとも蒼絃によく似ていた。

母は喜んでふたりを可愛がった。

「これで我が家も安泰ね」


朱鳥はといえば、穏やかに過ごしているように見せてはいたが、体のほうは嘘がつけず食は進まなかった。

今年の夏は例年にないほど暑い。

「暑くて食欲がないのです」と言い訳をして、兄の蒼絃と一緒に嵐山の別荘に来た。
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