アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
「あ、は、はい。先日は、沢山の土産物ありがとうございました」

「いえ。あの日の舞も見事でした」

――そんなお世辞はいいから、はやく行って!
と泣き叫びたくなるが、頭中将は相も変わらず動かない。

「……ありがとうございます」

仕方なくお世辞のお礼を言ったところで、「姫さま」と呼ぶ海未の声が響いてきた。

救いの神の登場だ。

「さあ、早く行ってください。あなた様とは、お会いしていないことにします。
 何しろこの格好ですから」
急かすように早口でそう言った。

「わかりました」

体を隠すように俯く朱鳥の横を、頭中将が通り過ぎ、
その後から気品ある香りが追いかける。

「また、会いに来てもよろしいですか?」

――え?
朱鳥は耳を疑った。

――今まさに結婚しようという人が、何を言っているのですか?
これだから男は油断ならないと憤慨し、
「ご正室を迎えられるそうで。おめでとうございます」と、
お祝いの言葉の中に皮肉をこめた。

ハッとしたように頭中将は振り返り「それは……」となにかを言いかけた。

だが、その言葉に海未の「姫さま、どちらに?」と呼ぶ声が重なり、その声はすぐそこまで近づいている。
悔しそうに唇を噛んだ頭中将は、するりと姿を消した。
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