アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
「あ、そのことでしたか」

そういえば、と鈴木は思い出す。

遅れて西園寺洸がその場に来た時には彼女は既にそこから離れていたが、妹の後ろ姿を心配そうに見つめながら、碧斗は『あの子は特別なんだ』とつぶやくように言った。

――それは、ただの人見知りということではないということなのだろうか?

そう思いながら『特別?』と聞き返した時、碧斗は『まだ慣れていないから』と言葉を濁し、うやむやに微笑んだ。

「確かに、私も気になりましたが……」

「藤原は昔から妙な奴には違いない。いつだって浮き世離れしていて、心ここにあらず。何があっても驚いたりしなかった」

そんな彼が妹の後ろ姿を見つめる時は、辛そうに表情を崩していた。

「やはり身内のことになると違うのでしょうか? 妹さんのことをとても大切に思っているようでしたね」

何を考えているのか西園寺洸は、瞼を閉じて何かを考え込む。

――確かに碧斗の発言は気になるといえば気になるが、それほどだろうか?

そもそも常務が女性に興味を持つなんて珍しいですね? 鈴木はそう聞こうとして口を開きかけたが、考え過ぎだったのかもしれない。瞼を開けた時にはすでに、洸の脳裏に彼女の姿はなかったようだ。

「明日のプレゼン、少し気になる点がある。担当者を呼んでくれる?」

「はい。わかりました」

一見変わらないように見える彼の瞳の奥は鋭く、すっかり仕事の色に代わっていた。
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