アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
藤凪流というのは、『凪』の文字の通り初代家元の時代からひっそりとしている。進んで普及するなどの精力的な活動をせずにきた。

それは、国内はもとより海外に対しても同じだったが、頑なに門戸を閉ざしているわけではない。入門は紹介制と厳しかったが、先日碧斗や飛香がパーティの余興を演じたように、請われるまま表に出ることもある。

今回の父の旅もそうだった。
熱心なフランス人の弟子が、自らの資金でパリの郊外に研修所を建ててまで、家元の指導を受けたいと願ったからである。

他にもヨーロッパでいくつかのイベントをこなす予定であり、直近ではその研修所において要人を迎えた式典が五日後にあるのだが、付き添っている母がとても心配していた。

『疲れからくる風邪だろうと医者はいうのだけれど、このところ無理をしていたから心配なのよ。
 碧斗、来てくれないかしら』

緊急事態であるし、都合がつかないわけではない。父の様子も心配だ。

問題は飛香である。

千年の時を越えてここに来た妹。

年齢的には立派な大人だが、いまだ勝手がわからないことだらけの飛香をひとりで留守番をさせるわけにはいかない。

何しろこの妹は、ほんの二年しか今の時代を経験していないのだから。
< 58 / 330 >

この作品をシェア

pagetop