アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
――“飛香”になりきらなくちゃ。
その夜、飛香はそう思いながら、本棚から“飛香の日記”を取り出した。

本来ここにいるはずの“飛香”が、日記を書きはじめたのは中学生だった。

『平安貴族のように、私も日記を書こう』

そんな風に始まる日記からも、いかに“飛香”が平安の都に憧れ続けたのかがわかる。

“飛香”は不思議なほど平安時代に興味を持ち憧れていた。
それはまるで、恋をしているようだった。

大学で専攻したものも卒業論文も平安時代に関することだし、朱鳥の目から見ても遜色ないほど美しい筆字による『かな文字』も書いた。
横書きでスタートした日記も、いつしか筆による『かな文字』になっていたのである。

お陰で日記を抵抗なく読むことができ、まさに教科書となっている

都内の雑踏があまり好きではないこと。出かけると言えばいつも本屋か図書館だということ。平安時代に固執するあまり、話の合う友人がいないことなど。

もちろん、こんな風に誰かに熟読されるとは思って書いていないだろうし、ましてや今のように他人と入れ替わることを予想して書いたわけではないだろう。
それでも、“飛香”として生きていくことになった彼女には、なくてはならない貴重な記録である。
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