アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
そして扉が開くと、四つの瞳が洸に向けられた。

「おかえりなさい」と微笑む夫人の斜向かいの席から、頬を染めて立ち上がった若い女性、藤原飛香こと朱鳥が、深々と頭を下げる。

「お世話になります」

鈴のように軽やかな声だった。

「いらっしゃい。どうぞごゆっくり」

着替えてきますと断って、洸は扉を閉めた。

「そういえば洸さまは、あのお嬢さまをご存知でしたっけ」

「ああ、彼女の兄とは友人だからね」

髪が綺麗だとかとても神秘的だとか声も可愛いとか、引き続き藤原飛香を絶賛するサワの話を聞き流しながら、洸は心の中で首を傾げた。

――あんな声だったのか?

パーティ会場で別れ際に少し言葉を交わしたはずが、周りの雑音もあり彼女の声が小さかったこともあるのだろう、よく聞こえなかった。

もっと臆病そうで声ももう少し弱々しいと思っていただけに、明るい笑顔と軽やかな声が意外である。

本当に記憶喪失なのか? と、疑問に思ったりもした。
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