真の魔性の女は、色気がない
この会社に来て、三ヶ月たった。
旅行シーズンが過ぎて、仕事も落ち着いている。
そんなとき、ガイド達が噂をしているのを聞いてしまった。
シーズンオフになると、日勤としてガイドが出勤してくる。
ガイドの勉強をしたり、バスの車内清掃をしたりしている。
今日は、事務所の奥の休憩スペースで、勉強会をしているようだった。
トイレに行くのに、その休憩スペースの前を通らなければならない。
「そう言えば、ミエちゃん、彼氏と別れたらしいよ。」
「ああ、あの遠距離の?」
「そうそう、K都の人。」
「ええ、K都~、あの土地の人達って、他県ナンバーの車、絶対に車変(車線変更)させてくれないよね。前に行ったとき、篠田がキレてたもん。最悪だった。」
「ああ、それ、ミエちゃんも言ってた。彼氏とドライブしてたら、すごい車間詰めて走ってるから何で?って聞いたんだって、そしたらね、A県の奴は、意地が悪いから入れないって言ったらしよー」
「「何それ~、ギャハハハ。」」
おい、真面目に勉強しろよ!
そう突っ込みながらも、笑いがこみ上げる。
トイレへと駆け込んだ。
そっかー、ミエちゃん別れたんだ。
別れて正解だよ、ミエちゃん。
A県の人達は、意地悪じゃないし、そんな屁理屈言う奴、別れて正解だ。
しかも、K都って腹黒いって有名じゃないか。
ミエちゃんには、似合わないよ。
ミエちゃんは、表裏なく、誰にでも優しい。
ああ、僕の天使。
今はフリーなのか?
もしかして、チャンスかもしれない。
今は、暇な時期だし。
何としても、近づきたい。
今のところ、同僚として、嫌われてはいないと思っている。
トイレから出て、事務所に戻る。
もう、ガイド達の話声は聞こえない。
真面目にやってるようだ。
それでいい。でも、朗報を有難う。
心の中でお礼を言った。