隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
「大盛じゃなくていいよね?」

ポケットから財布を出して、さっさと食券を買う五十嵐さん。

「えっと、自分で」
「学生は黙って奢られていればいいから。おじさんありがとう、ラッキー! でいいんだよ」

あっ、なんか「女は」とか言わないところ、嫌いじゃない。

「五十嵐さんはおじさんじゃないですよ」
「今ので、味玉付きになった」

二人でカウンターに並んで、味玉つき塩ラーメンを食べる。
最初に一口スープを飲んだ後、ちょっとだけに気になることがあった。こういう時、麺はがっつりすすっていいものなのか。

ためらっていると、五十嵐さんはズズズッと大きな音をたて、豪快に食べはじめた。

そうだよね、れんげにのせて上品に食べるのはおかしいよね。ちまちま食べて麺がのびたらおいしくないし。
私も、五十嵐さんの真似をして、おもいきり麺をすすりはじめた。

「おいしい! 幸せ」
「よかったな」

ひたすら食べて、スープまで飲み干して店を出る。たったそれだけなのになぜか楽しい。
人気店らしく、お昼どきのこの時間、店の外に並ぶ人もではじめている。だから長居をすることもなく、ほとんど無言で食べて、食べ終わったらさっさと席を空けた。

「ごちそうさまでした」
「どういたしまして」

これからスーパーに行くのだと告げると、五十嵐さんはそうかとスーパーに向かって歩き出す。

「大学は夏休み?」
「そうです。ちょうど今日から」
「それはそれは」
「……バイトに励みます」

ラーメン屋とスーパーは目と鼻の先。店内に入る前にお礼を言って、「じゃあ、また」と私がぺこりと頭を下げると、五十嵐さんは「ああ」と見送ってくれる。
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