隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
でも、簡単に買い物を済ませてスーパーを出ると、まだ別れた場所に、五十嵐さんの姿があった。

「待っていてくれたんですか?」
「お荷物をお持ちしますよ、お嬢さん」

お嬢さんって呼ばれたのは昨日に引き続き二回目だ。仕事着だとちょっと執事っぽいけれど、今のラフな姿だとインテリ詐欺師みたいだ。

「じゃぁ、お言葉に甘えて」

五十嵐さん相手だと、どうも調子が狂う。これが他の男の人だったら絶対断るのに、自然に甘えていいのかなって気分になる。
ようやく職業を知った程度の関係。下の名前も正確な年齢も知らない。帰り道、いろいろ知りたくなったけれど上手くできなくて、結局は自分のことばかりしゃべっていた。
大学のこと、バイトのこと、故郷のこと。

マンションに着いてエレベーターに乗り込むと、行きとは違う意味で居心地が悪かった。密室に男の人と二人きりなんだと、なぜか意識してしまう。
シャツのボタンが二番目まで開いていて、セクシーってこういうことなのかなぁ、なんて漠然と考える。首筋から汗が落ちて、逞しい胸に吸い込まれていくのを見てしまってから、急に心拍数が上がっていった。
 
「ラ、ラーメンここしばらく食べてなかったから、ほんと美味しかったです」
「なんでだ? あ、デートではラーメン屋にはいかなかったのか」
「っう……それもあります」

何か喋らなきゃと適当に出した話題で自爆してしまった。
デートでラーメン屋にいかなかっただけでなく、うっかり太りたくないから、一人でも行かなかったという理由もある。でも、そんな乙女な私には昨日でサヨナラしたんだ。

「ごめん、傷口えぐったかも」
「いいんです。今思えば、お互い気兼ねなく、ラーメンを食べられる相手になれなかったのが敗因です」
「相性の問題だろう。じゃあ、今度はラーメンを気軽に食べに行ける相手を好きになればいい」

それってどんな人? と真剣に考えはじめ、特定の人物に辿り着きかけて慌てて遮断した。

「……当分、恋愛は控えます」
「悪い女になるんじゃなかったの?」
「五十嵐さんも無理だって、思ってるでしょう」
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