隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
もしかして、頑張ってお弁当を作った方がいいのかな? でも、お弁当は私には難易度が高すぎる。彼は料理ができる人みたいだし、できの悪いお弁当を披露したら幻滅されてしまう。そもそも材料も容器もない。

他に何か必要なものはないか、頭を必死に働かせていると、五十嵐さんが意外なことを言い出した。

「なにもいらないよ。本当に手ぶらでいいから」
「えっ、でも」
「花火会場には行かない。混んでて大変だろう」

五十嵐さんは大人だ。混んでて場所取りも大変な場所で、はじめてのデートをする気だった私より、ずっといろんなことを考えていてくれる。
まずい。とってもまずい。全部彼に任せておけばいいや、ってそんな気持ちになってしまう。こんなに甘えてばかりでいいのだろうか。でも心地よくて、嬉しくて、安心してしまう。

「じゃ、仕事もどるから。また明日」
「はい、お仕事がんばって。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」

電話を切る前の、最後の「おやすみ」という言葉だけが、少し低く、艶っぽく聞こえた。私はその言葉を放っただろう、彼の唇の形を思い出して、なかなか寝付けなかった。


    ◇ ◇ ◇ ◇


「お、久しぶりのスカートだ」

約束通りの11時にやってきた五十嵐さん。
夏のセールで買った、おろしたてのワンピースを着た私を見てそう言った。
そういえば私はここ最近、ショートパンツにTシャツに、ぺったんこサンダルが定番の組みあせになっていて、メイクも薄めだった。

もちろん今日は久々に朝から頑張った。汗に負けないように、ファンデは下地から丁寧に塗ったし、マスカラもバッチリだし、ぷるぷるになるリップも。

あれ、ちょっと待って。すでに気の抜けた姿の私も見られてるのに、取りつくろって可愛くみせるのは無駄なこと?

それに、五十嵐さんは私がラフな服装だった時に「そういう服も似合ってる」って言ってくれたし。
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