隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
「どうして、ですか?」

何がいけなかったんだろう。どこで失敗しちゃったんだろう。知らずにわがままを言ってしまったのかも。彼を不愉快にさせていた? いつから? 子供っぽくって話が合わなかった?

伝えたいことが、頭の中で整理ができない。

「あの、私……何がダメでした?」

あまりいい反応ではない自覚はあったけれど、湧き出てくる疑問を一言で表したら、こうなった。
目の前の人は困った顔をした。こういう顔をさせてしまったのははじめてだ。それだけでなんだか申し訳なくなる。
彼は言葉を選びながらゆっくりと理由を言う。

「いつもオシャレで可愛くて、莉々子ちゃんはいい子だと思う……でも、だからこっちも気が抜けないんだ。少し、僕のほうが格好つけすぎてた気がする。飾らない自分を出せなくなってしまった」

意味がわかるようで、わからない。貶められたわけではない。
でも足りない部分を指摘されるより、ずっと深く刺さった。「今からでも、やり直しはできませんか?」と聞かなかったのは、すがりたくないというなけなしのプライドだったのか、それとも自分のダメさを痛感したせいなのかよくわからない。だから「わかりました」と「今までありがとう」を言うしかなかった。

あっさりと、お別れが決まった私達に、もう共有できる時間はない。

「送っていくよ」
「あっ、いえ……近いから大丈夫です。これ、飲んでから帰ります」

歩き出したら泣いてしまいそうだから、せめて、まだ残っているカクテルをちゃんと飲み干してから帰ろうと思った。今なら強いお酒も一気に飲める気がする。
ぎゅっと結んでおかないと、ふるふると震え出してしまいそうな唇は、これ以上彼の前で動かすことはできない。
今まで私の気持ちを理解しているような、さりげない気遣いをしてくれていた彼は、やっぱり最後まで完璧だった。それにくらべて、私は幼稚でみじめだ。

「じゃぁ、元気で」

立ち去ってほしいという願いは、口にしなくても早々に叶い、振り返ることすらしない彼のことを少しだけ嫌いになれた。
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