隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
「わたし今、いい女の階段を一段上れた気分だわ」
ちょっと興奮ぎみに美樹が喜んでくれたので、なんだか嬉しくなる。
「私も!」
「でも、本当は莉々子には必要ないスキルだよね。だって、ここ以外のおしゃれなバーに一人で行くことなんて、きっとこの先ないだろうから」
美樹はひやかし半分だが、悪い気はしない。私が「いい女」でいたいのは、五十嵐さんの前でだけだから。
「そ、そうだといいな……」
もごもごしながら、せいいっぱい肯定すると、五十嵐さんも目を細めて微笑んでくれた。
美樹と二人で、バーニャカウダーとサンドウィッチを注文し半分ほど食べた頃、すでに空になったグラスの中で、溶けた氷がカタリと音をたてる。
「美樹、次は何を飲む?」
「どうしよう。次は、カクテルっぽいカクテルを飲んでみたいな。きれいな色のカクテル。あとできればシェイクしてる姿がみたいです」
カクテル初心者の私達の考えていることはだいたい一緒だ。見かけや名前、あとシェイカーを使ってもらえることに、なんとなく価値を見出してしまう。五十嵐さんも、私達のような漠然とした要求に慣れているのか、軽く頷いてオーダーを聞いてくれた。
「美樹さん、好きな色は?」
「うーん、紫とか?」
「アルコールは弱くはない?」
「莉々子よりはずっと強いですよ」
「それは頼もしい。じゃあお任せってことでいいのかな」
「お願いします」
私を基準にすると、大抵の人は「強い」ことになるが、美樹は謙遜ではなく本当にお酒に強い。自信のある口調から、五十嵐さんもそれを察したらしく、さっそくカクテルを作りはじめる。
数えきれないほどのお酒の位置を、全部把握しているらしい五十嵐さんは、迷いのない動作で目当ての瓶を選び、メジャーカップで軽量する。銀色に光るシェイカーに集められた素材は、子気味良い氷の音が響く中でひとつに混ざり合う。
グラスに注がれた半透明の液体を見た瞬間に、ふたりで「わぁ」と歓声を上げた。
ちょっと興奮ぎみに美樹が喜んでくれたので、なんだか嬉しくなる。
「私も!」
「でも、本当は莉々子には必要ないスキルだよね。だって、ここ以外のおしゃれなバーに一人で行くことなんて、きっとこの先ないだろうから」
美樹はひやかし半分だが、悪い気はしない。私が「いい女」でいたいのは、五十嵐さんの前でだけだから。
「そ、そうだといいな……」
もごもごしながら、せいいっぱい肯定すると、五十嵐さんも目を細めて微笑んでくれた。
美樹と二人で、バーニャカウダーとサンドウィッチを注文し半分ほど食べた頃、すでに空になったグラスの中で、溶けた氷がカタリと音をたてる。
「美樹、次は何を飲む?」
「どうしよう。次は、カクテルっぽいカクテルを飲んでみたいな。きれいな色のカクテル。あとできればシェイクしてる姿がみたいです」
カクテル初心者の私達の考えていることはだいたい一緒だ。見かけや名前、あとシェイカーを使ってもらえることに、なんとなく価値を見出してしまう。五十嵐さんも、私達のような漠然とした要求に慣れているのか、軽く頷いてオーダーを聞いてくれた。
「美樹さん、好きな色は?」
「うーん、紫とか?」
「アルコールは弱くはない?」
「莉々子よりはずっと強いですよ」
「それは頼もしい。じゃあお任せってことでいいのかな」
「お願いします」
私を基準にすると、大抵の人は「強い」ことになるが、美樹は謙遜ではなく本当にお酒に強い。自信のある口調から、五十嵐さんもそれを察したらしく、さっそくカクテルを作りはじめる。
数えきれないほどのお酒の位置を、全部把握しているらしい五十嵐さんは、迷いのない動作で目当ての瓶を選び、メジャーカップで軽量する。銀色に光るシェイカーに集められた素材は、子気味良い氷の音が響く中でひとつに混ざり合う。
グラスに注がれた半透明の液体を見た瞬間に、ふたりで「わぁ」と歓声を上げた。