隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
「すごい、きれいな色。こんな色のカクテルもあるんですね」

淡い紫色のカクテルを運んできた五十嵐さんに、美樹が感動した様子で言った。

「ブルー・ムーン。パルフェ・タムールというリキュールがこの色を出してくれる。ニオイスミレのリキュールだ。アルコール度数は高めかな」
「名前もおしゃれ!」

最後にグラスの中に浮かべられたレモンピールは月に見立てているのだろうか。美樹はそのカクテルが気に入ったようで、両手をあわせて喜んでいる。

いいなと、私は心の中で呟いた。
強いお酒はきっと私は飲めないし、五十嵐さんも出してくれないだろう。
しかし、そのあと私のために作ってくれたカクテルも、美樹と同じブルー・ムーンのように見えた。

「これは、莉々子ちゃん用。レシピを変えてあるから飲んでも大丈夫」

私のカクテルには、月ではなくハートマークのレモンピールが浮かんでいる。
五十嵐さんは、私の考えていることなんて全部お見通しだ。うれしくて恥ずかしくて、何と言えばいいのかわからず顔を赤くさせていると、ちょうど別のお客さんの来店があった。

髪の長い女性が、私と美樹がいる席からふたつほど空けて座る。
常連さんなのか、五十嵐さんと親しそうに挨拶を交わしていた。それがきっかけで、私と美樹は五十嵐さんと距離を置き、他愛ないおしゃべりをはじめた。


時刻は七時半すぎ。店内はその後一気に何人かの入店があり、五十嵐さんともう一人のバーテンダーさんも、本格的にお仕事がはじまった。
私と美樹は二杯目のカクテルを飲み干し、食事もきれいに食べ終えた後、店を出ることにした。
帰り際に、五十嵐さんは私達に声をかけてくれた。

「こんな感じだけど、またいつでも二人で来てね」
「はい。今日はありがとうございました。おやすみなさい」

私との会話のあと、五十嵐さんは美樹の方へ視線を移す。
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