隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
「いい? 遠慮したら負けだよ。五十嵐さん、確かに黙ってても女のほうから寄って来るタイプだね。だから、これからは莉々子が蹴散らしてやりなさい。次にこんなことがあったら、別れ際にハグでもキスでもぶちかましてやりなよ」
「いやいや、真面目に仕事してる人にそんなことしたら、迷惑極まりないでしょう。それこそ見苦しい嫉妬をするお子様だって、嫌われちゃうよ」
「そうかな? むしろ喜びそうだけど」

たとえ十年たっても、そんな大胆なこと私にはできそうにない。

「あのね、美樹。私、五十嵐さんの誕生日……知らなかった」

思い返せば、花火大会の日に二人で呉服屋さんに行った時、五十嵐さんのお友達の店主さんが言っていた。「あと二か月もしないで三十だろう」と。なんでもっと気にしておかなかったんだろう。これは完全に自分の怠慢だ。

「アラサーの男の人が誕生日の一回や二回に固執するとも思えないから、気にすんな」
「そうだけど」

でも、知らない女の人から聞かされたくはなかった。そう思ってしまう自分が酷くみにくく感じた。
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