隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
その夜、お風呂を終えて、私がお隣の部屋で待つべきか悩んでいる頃、五十嵐さんは電話をくれた。用があるとき、直接電話をかけてくるのは彼のこだわりのようだ。
日曜日一緒にでかけようかと誘われ、私は素直に「はい」と答えた。たったそれだけの短いやりとりでも、直接声を聞くと違う。

『悪いんだけど、朝の九時に起こしに来てくれる?』
「もっと遅くてもいいんですよ」
『大丈夫。せっかく莉々子ちゃんに会えるのに、いつまでもごろごろしていたらもったいないから』

与えられた任務と、私とすごす日を楽しみにしてくれるのだと知って、一気に心が軽くなる。

二日後に会ったら、ちゃんとお祝いを言おう。遅れてしまってごめんなさいって。プレゼントは五十嵐さんと一緒に選ぼう。
そこまで決めたところで安心した私は、結局この夜、隣の部屋を訪ねることはせず、自分のベッドで大人しく眠りについた。


    ◇ ◇ ◇ ◇


日曜は朝からはりきった。丈の長いスカートにノーカラーのデニムのジャケット。リップは、買ったはいいけどちょっと濃い気がして、しまってあった色を使ってみる。
支度ができたところで、五十嵐さんに起こしてと頼まれた朝の九時。最後に、この前美樹からもらったオードトワレを、ほんの少しつけて玄関に向かう。

靴はどうしよう。秋らしくブーツがいいかと考えたが、今日の服にあいそうな手持ちのショートブーツはヒールが低めだ。大人っぽい方がいい。悩んだ末にアースカラーのパンプスを選ぶ。

朝、起こす係というのは、特別な役割に思える。
五十嵐さんの部屋を前で一瞬インターフォンを鳴らそうか迷ったけれど、せっかく頼まれたのだから合鍵を使わせてもらおう。
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