隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
「私だって!……言ったら嫌われるかもって。本当はすごい気にしてます。お客さんからプレゼントもらうのも嫌だし、お客さんが五十嵐さんのこと、親しそうに下の名前で呼ぶのも嫌だし。私のほうが心の中では絶対に酷いこと考えてるから」
「いや、絶対俺の方がすごい嫉妬しまくってるから。自信ある。親友のお兄さん? なんだそれはって嫉妬するし、大学で何してるのかなって考えただけで、隣の席に座った空想上の男に嫉妬するから」
「私だって自信あります。バーのお客さん、実は女性客多いって気付いてものすごい嫉妬してますから!」
「いや、俺なんか……」

続けようとしたところで、二人でおかしくなって、こらえきれず笑い出す。ひとしきり笑った後、五十嵐さんが私の髪をひと房掴んだ。

「髪が濡れてる。乾かしてあげるから、ドライヤー貸して?」

そういえば風呂に入ったあと、タオルドライしただけで、ちゃんと乾かしてなかった。さっきは不用意にくっついたから、彼の服を濡らしてしまったかもしれない。
五十嵐さんを部屋の中に案内して、櫛とドライヤーを取りに行く。

ラグの上に腰を下ろした五十嵐さんは、ひとつだけあるクッションをその前に置いた。

「おいで」

手招きをされ、私は素直に従った。彼に背を向けるように座ると、ドライヤーから温かい風が吹いてくる。
  
「あのプレゼント……中身はなんだったんですか?」

ドライヤ―の音に紛れながら、私は気になっていたことを正直に聞いた。

「……知らないよ。見てないから」
「もうひとつ持ってましたよね」
「あれはオーナーからのチョコレート。あとで一緒にたべようか」
「オーナーは女の人?」
「七十代のじいさんだよ」
「私、ものすごくめんどくさい女になってません?」
「素直になってくれるのは、大歓迎だ」

髪が乾いて、ドライヤーの音が止まる。立ち上がろうとした私を引きとめた五十嵐さんは、そのまま引き寄せて、組んだ自分の膝の上に乗せた。
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