隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
結局そのまま、五十嵐さんが使っていたものと同じ香水を買ってもらい、だったら、私も誕生日プレゼントを奮発しようと気合いをいれてみたが、目論見はあっけなく散る。
メンズフロアに到着すると、五十嵐さんは「仕事でつかえるから」とカフスボタンをリクエストしてくれた。そして抜かりなく、私にも手を出せる価格のものに誘導されていた。
すべてが五十嵐さんのペースで、勝てる気がしない。

「もう今月は週末でかけないですから!」

外出するたびに、五十嵐さんは私のために散財する勢いがある。大丈夫だと言われても、田舎の庶民精神が崩壊してしまいそうだ。

「いいよ。それもある意味、俺得だから」

横に並び、私の肩を引き寄せた五十嵐さんは楽しそうだ。……やっぱり勝てる気がしない。

 
帰りにデパ地下で総菜とケーキを買って、マンションに戻る。過ぎてしまったけれど、誕生祝いをするためだ。

本当は手料理を披露したいけれど、あいにく私には、披露できる手料理のレパートリーの持ち合わせなんかない。せめて今夜は五十嵐さんも何もしなくていいように、出来あいのものでごまかした。

シャンパンを用意して、ろうそくを三本立てたケーキを出したところで、家を出てからずっとご機嫌だった五十嵐さんが、はじめてふてくされた顔をした。よほど三十歳が嫌だったらしい。

「機嫌なおして?」
「じゃあ、お願いがあるんだけど、もうひとつ誕生日プレゼントもらっていい?」
「なんでも言ってください!」
「なんでもって、そんな簡単に言っちゃっていいの?」

試すように意地悪なことを言う彼も、私は好きだ。
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