隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
言われてはじめて、中身を知った。そもそもブレスレットもネックレスも……余計なアクセサリーを仕事中は付けないんだが。
しかし、この人は俺の何を知っているのだろう。

「むしろ恋人に嫉妬してほしいと思ってしまう、俺も案外面倒な男だと気付かされました」
「そこまで言わせるなんて、きっと美人なんでしょうね」
「美人というより、かわいいです。ものすごく。俺には勿体ないくらい、若くてかわいい子です。ああ、この前ここですれ違った子ですよ、まだ大学生なんですが」
「……そ、そう。よく覚えてないわ」

相手の顔がちょっと引きつっていた。俺はグラスを拭くそぶりで、ひっそりと口角を上げた。


   ◇ ◇ ◇ ◇

 
「店長、ご機嫌ですね。今日、お得意さんが一人消えてしまったのかもしれないのに」

閉店作業のモップ掛けをしながら、菅島はそうやってからかいだした。

「まあ、胡散臭い笑み振りまいてる、胡散臭い店長よりいいけど」
「菅島……胡散臭いのはお前だ」
「莉々子ちゃん、確かにかわいいですよね。素朴な感じがね。店長は最近心が若返ってますよね。もう、三十なのに。いいなあ、あやかりたい」
「彼女が店に来ても絶対に話しかけるなよ。穢れるから」 
「怖い怖い。……そうやってあの子の知らないところで、悪い虫つかないように計算して、束縛してそう」

指摘されて、ふと自分の行動をかえりみる。
相手の包み隠さない心を見たいと願っているわりに、俺はまだまだ隠してる本音が多い気がした。これは菅島の言う計算なのだろうか。

「なあ……たとえばだけど、お前なら妹にねだられたからって、旅行先で、妹の友達に高級な土産なんか買う?」
「買いませんよ。俺には姉しかいないけど、ナニソレふざけんなってなりますよね。……ただし、そのお友達が自分好みだったら話は別」
「だよな」
「それって莉々子ちゃん関係ですか?」
「本人気付いてないみたいだから、詳しく聞いてないし、下手に意識されても困るから、そいつ個人に気を付けろとも言ってない」
「なるほど、永遠に気にかけない相手でいてもらうために、あえて教えないんだ。悪い人だな」
「ほめ言葉と受け取っておく」

そして、細かいところによく気付く菅島は、彼女と関わらせてはいけない男の最上位にリストアップされた。
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