隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~

Summer2

楽しい夏休みがやって来ると思っていた。海やプール、夏祭り、彼の休みに合わせて一泊でもいいからどこか旅行に誘ってはもらえないかな、なんて期待もしてた。儚い夢だった。

「美樹に言わないとな……」

私を悩ますのは、親友、美樹への失恋報告だ。
吉沢さんは、美樹のお兄さんの友人なわけで……私から言わなくても、そのうち相手から伝わるとは思う。
大事なことは直接自分から伝えたいという気持ちと、美樹は自分が夏休みに入ったらすぐに、家族で海外に旅行だと言っていたから、水を差すようなつまらない報告はしたくないない気持ちで、揺れる。
 
もし今彼女が近くにいたのなら、遊びに誘って気晴らしに付き合ってもらうのに、それができないのも残念だ。

ニュースでは連日の猛暑の話題が続く。

「今日の東京の最高気温は30度、昨日に比べると過ごしやすいでしょう」

……真夏日なのに過ごしやすいって、なにかがおかしいよ、今年の夏。
もしかしたら、この夏は引きこもれという天からの指令なのかもしれない。だって外に出たら「命の危険もある」ってこの前、髪型のおかしなお天気キャスターも言っていた。

最近のお気に入りのスカートも、ブラウスも、ワンピースも、無駄に肩にかけていたカーディガンも封印して、ショートパンツにTシャツ姿でごろごろ。でもスーパーには行かないと餓死するし……。

仕方なく、ギリギリ午前中のうちに重い腰をあげて、買い出しのために外に出た。

「あっ……」

扉を閉めて施錠している間に、ちょうどお隣のドアも開く。顔を出したのはもちろんその部屋の住人、五十嵐さんだ。

「やあ、おはよう」
「おはようございます」

顔を見れば、昨日の夜のことを思い出す。
五十嵐さんはみっともなくてもいいと言ってくれたけど、フラれた現場を目撃されたのは、とても恥ずかしい。
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