【完結】LIFE~君と僕の恋愛~
* * *
リビングの扉を開けた途端、鋭い視線に捕まり、その場で動けなくなった。海愛の父親は古典的な日本男児という印象で、ソファの真ん中に腰を下ろし、腕組みをして僕を見つめていた。背を冷たい汗が伝う。
「君が櫻井蓮くん、か」
「はい」
低い声で名前を聞かれ、僕は条件反射で答える。
「まぁ、とりあえず座りなさい」
海愛の父親に言われるまま、僕は向かいのソファに腰を下ろす。同時に海愛もその場に呼ばれ、台所では海愛の母親がお茶を淹れていた。
沈黙が続き、緑茶が運ばれてきたところで僕は勢い良く頭を下げた。
「すみませんでした」
「顏を上げなさい」
僕は深く頭を下げたまま謝罪を続けた。海愛は僕の隣で心配そうに見つめている。
「僕自身のことで、娘さんにはとてもツラい思いをさせてしまいました」
海愛の父親は深い溜息をつき、ソファの背に全体重を乗せる。些細な行動に、僕はビクリと体を震わせた。冷め始めた緑茶を啜り、海愛の父親は言った。
「私は君が憎くて言うんじゃない。君がこうしてきちんと挨拶に来る誠実な男だということは分かったし、娘を選んでくれたことは親として嬉しく思う。ただ、ね」
海愛の父親は腕を組み直し、再び険しい表情を見せる。僕は動かず、その場で生唾をのみ込んだ。
「私も人の親だからね。娘には普通の家庭を持って、幸せな生活を送ってもらいたいんだよ」
グサリ、となにかが深く突き刺さり、肺から空気が抜けていくような感覚。発作などではなく、確かに僕の体に起こった衝撃。海愛の父親の言葉は、予想以上に僕の心に大きなダメージを与えた。
それは、僕がずっと望んでいた「幸せの形」そのものだったから。