今の世の中暇しない
ーピピピピッピピピピッ ー
白を基調とした広くも狭くもない部屋に大きな電子音が鳴り響く。
ーピピピピッ ピピピピッ ー
一人寝るのに丁度良い大きさのベッドで寝ている高校生ほどの黒髪の男はピクリとも動かない。
ーピピピピッ ピピピピッ ー
女の子に囲まれたり、1億円が当たったり、さぞかし良い夢を見ているのだろう。
ーピピピピピピピピ… ー
明日、7時に起こしてくれとお願いされ、いざ起こしてみると起きないので目覚し時計は怒りを上げ1段階大きな音を出した。
ーピピピピピピピピ… ー
「るっさいなー!」
バコンッ
目覚し時計は彼に文句も言う間も無く、沈黙させられた。どうせ明日も同じ事を繰り返され文句も言えずに口を閉められるのだろう。
「もう7時半か。もっと大きい音の目覚し時計買おう。」
ー…。 ー
「寒っ!」
彼が布団から出ると、部屋の室温は雪まみれの外気と変わらないのではないかと思うほど低く感じた。さっそくベッドから起き上がり、一つ伸びをした。閉まっているカーテンからは微光が漏れている。俺はそのカーテンを開けた。一面に広がる銀世界とは裏腹にお天道様は気分が良さそうだ。雲一つない空に浮かぶ灼熱の太陽の日差しが俺の黒髪とベストマッチして強く照りつける。そのためかさっきまで寒く感じていたが暖かく感じてきた。正直言って今家を出ないと閉門時間(学校開始時刻)には間に合わない。前日に今日の準備をしていなく、朝食も食べていない俺は遅刻確定だ。久しぶりに学校の門を登ることになるのか。そんな事を思っていると自然と心の奥から溜息が口から溢れた。とにかく、今日の準備をしなくてはと思い、机の上の壁に画鋲で留められている時間割に目を通した。
「数学、古典、音楽…」
俺は思った。数を学ぶ事は俺には難しい。古い言葉は読めない。音を楽しむ事はごめんなさいできません。おまけに今日は体育無しの7時間であるという。もう遅刻確定だし、別に行かなくても良いんじゃね。そんな事したら父さんに滅多打ちにされるので、リュックの中に教科書、空欄だらけの宿題を詰めた。そして、見るからに暖かそうな部屋着を脱ぎ捨て、ハンガーにかかっている学ランを着た。俺はリュックを持って階下のリビングへと向かった。
「母さん、朝ごは…」
窓からは日光が入り込み、床には光の形が映し出されている。いつもは対して気にならないことが気になるほどリビングは静寂に包まれている。妹、母、父とともに学校、仕事に行って誰も居なかった。
「…。」
おまけに6人ほどで囲めるほどの平凡な木目調テーブルには俺の朝ごはんすらも置かれていなかった。
「母さん…」
結論、以上の事より俺は家族に愛されていないということがわかった。うん、傷付くね。
とにかく、この事について今の時間帯学校に着いているであろう妹に電話する事にした。
ーピッピッー発信っと。
ープルルルルル、プルルルルルッ、ガチャッ。ー
妹は携帯をいじっていたのか意外にも応答が早かった。だが、
「もしもし、お兄ちゃん。何の用事?お兄ちゃんの着信通知のせいで音ゲーゲームオーバーになったんだけど。くだらない用事だったら怒るよ?」
会話始まり早々に妹は怒がこもった口調で話した。
「俺の朝ごはん知らない?」
「…。」
「なあ、聞いてるか?」
ーツーッツーッツーッー
切られた。この質問がくだらない質問だというのか。俺にとっては生死に関わる事だぞ妹よ。こうなったら、答えてもらうまで電話をかけようじゃないか。俺はもう一度画面上の発信ボタンを押した。
ープルルルルルッ…ガチャッー
「はいもしもしー、お兄ちゃんうるさいよ。また同じこと聞くんでしょ?切るよ。」
「待て待て待て!お願いだ。答えてくれ。」
「…。」
1回目同様に沈黙が訪れた。どうせまた切られるのだろう。
「うーん、音楽の教科書持ってきてくれるんだったら教えようかな。どうせまだ家にいるんでしょ?あっ、いっそのことお兄ちゃんのでも良いよ。2,3年生共通の教科書だし。」
ツンデレか。
「わかった。その交渉に応じよう。」
「はい、これで交渉成立ね。それはね…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ージュージュー…ー
ソーセージをフライパンで焼く音が耳に響き、その香ばしい匂いが鼻を通過し、嗅覚に少しの幸福をもたらす。
「千里ちゃん。将太を起こしてきて。もう朝ごはんできるから。」
フライパンを片手に母が私にそう告げた。ちなみに千里とは私の名前である。
「はーい。」
めんどくさいと思いながらも鼻に止め処なく押し寄せる香ばしい香りによって唆られる食欲を我慢し、私はお兄ちゃんの部屋がある2階へと向かった。そして、閉ざされたドアの前に立った。
「お兄ちゃーん、朝ごはんの時間だよ!」
「…。」
ーチュンチュンチュンー
部屋からは返事が一切なく、物が地面に落下する音すらも聞こえなかった。その代わりに鳥のさえずりが聞こえた。私はできるだけの大きな声で呼んだよだが起きない。
「おーーい。お兄ちゃんってば。」
「…。」
「おい!起きろコラ!」
私は中に入った叩き起こしてやろうと思ったのだが、ドアはロックされていて入ることができなかった。
「もう知らないからね。私が全部食べちゃうからね!」
「…。」
朝ごはんを食べる為に再度リビングへ向かった。母は仕事が早く、既にテーブルには4人分の朝食が用意されていた。
「千里ちゃん。将太起きた?」
「うん、起きてたよ。でもお腹空いてないから食べないって。」
「あらそうなの。ならお兄ちゃんの分も食べちゃいなさい。」
「やったー!いただきまーす!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「って事があったの。」
「って事があったの。じゃないだろ。元凶お前だろ。」
ごめんなさいお母様。僕は貴方を疑ってしまいました。どうかお許しください。
「起きないお兄ちゃんが悪い。私は悪くない。以上。」
「はいはい。」
妹よ。ツンデレ通り越してめんどくさいゾーン突入だぞ。
「とにかく、冷蔵庫に食パン入ってるから食べて。」
「はいはい。」
「あっ。音楽2時間目だから10分休みに教室に持って来てね。2-1だから。」
「…。」
「返事は?」
「はい。」
「じゃあ、切るね。」
ーツーッツーッツーッ…ー
「って、時間的に歩いて行けねーじゃねーか!」
俺は今日はバス登校にすることに決めた。俺のジュース代さようなら。言われた通り冷蔵庫に入っていた食パンを取り出したのだが、バスを待っている時に食べようと思い、「千里のクリームパン」とパッケージに油性ペンで書かれたクリームパンを取り出した。それをリュックに詰めて俺は服掛けに掛かっているジャンパーを着て、リュックを背負い、靴を履いて我が家を後にした。戸締りをしっかりと確認して、徒歩5分ほどの距離にある最寄りのバス停へと向かった。5分後に着いたとしても10分待たなければバスは来ない。空を見上げるとビルの後ろから羊のような中くらいの雲が2,3個ほど出現したのを見た。
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