一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~
艶のある声にどきり、とした。
ばっ!と顔を上げると、そこにいたのは見慣れたスーツの彼。
「樹、さん…?!」
いつもの私なら、ぱぁっ!と笑みがこぼれていただろう。彼の顔を見れただけで一日の疲れが全部吹っ飛んで、彼のことで頭がいっぱいになったはずだ。
しかし、今、私の中を埋め尽くしているのは彼ではない。
心に浮かんだ言葉は一つだった。
“なんてタイミングの悪い”
「美香、今帰り?外に出てたの?」
「…っ、はい。今日は飲み会に誘われていて…」
「あ、そうなんだ。…おかえり。」
なんで、こんな罪悪感が込み上げるんだろう。私は何も悪いことなんてしてない。
なのに、彼の顔がまっすぐ見れない。
「?」と眉を寄せた彼。どくどくと騒ぎ出す胸。今会わなくても良かったのに、なんて思ったところでもう手遅れだ。
「樹さんは、なんでここに…?」
「今まで支配人室にこもって仕事してたんだよ。このまま徹夜しようと思ったんだけど、病み上がりだし。日付が変わる前には帰ろうと思って。」
どうやら、退勤時間と被ってしまったらしい。12時近くまで残業なんて、本当に仕事人間…
なんて言っている場合ではない。
「えっと…電話、出れなくてすみませんでした。」
「あぁ、いいよ。疲れちゃって、声が聞きたくなっただけだから。会えて良かった。」