一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~
どくん!
心臓が鼓動を止めた気がした。
脳裏に蘇るのは、かつての彼氏の声。
『処女は重い。』
そうか。
樹さんもそうなんだ。
やっぱり私のコンプレックスは、どこまでいっても絡みつく。
『大人になるチャンスを逃した。責任とって!、って君が誘ってきたからーー』
そういえば、彼はリムジンでこう言っていた。初めから、抱いた、なんて言ってはいない。樹さんからすれば、誘っておきながらホテルで爆睡されて寸止め状態。
迷惑をかけたのは私。勝手に勘違いしたのも私。
彼を怒れる立場なんかじゃないんだ。
「……すみません。」
「え…」
はっ、とする彼。
お互い冷静になった瞬間、冷水を浴びせられたかのように体が冷たくなるのを感じた。
自分のことを棚に上げて彼に気持ちをぶつけてしまった自分が恥ずかしい。
初めて、彼が声を荒げるのを聞いた。だが、それはその口から出た言葉が真実である証拠。
初めから、歪な関係だったのは分かっていた。
「…家に帰ります。」
「…!」
「もう、スイートルームにはお世話になれません。一ヶ月以上経ったんです。きっと、マンションを記者に囲まれることもないでしょう。」
目を見開く彼から、ぱっ、と背を向ける。
ホテルの光が視界から消えて、真っ暗な空が世界を包むのが見えた。
もう、彼の側にいることはできない。ここまでこじれたのだ。いけしゃあしゃあと豪華なスイートルームに居座るわけにもいかないだろう。