一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~
コツコツ
静かなロータリーに鳴り響くヒールの音。
すると、何も言わずに歩き出した私の手を、彼がぱしっ!と掴んだ。
(っ!)
思わず振り返り、交わる視線。焦ったようで、それ以上に困惑したような瞳。
そこに宿る色が揺れていた。
何を言っていいのか分からない。ただ、掴んでくれた手に、わずかに熱が宿る。
彼は何を告げようとしているのか。引き止めたということは、私に行ってほしくない何かがあるのか。
そんなわずかな期待が頭をよぎった瞬間。彼は切れ長の瞳をわずかに細めた。
「夜道に一人は危ないだろ。そんなにホテルに戻りたくないなら、送ってく。」
「!」
あぁ。
期待した私が、馬鹿みたい。
「結構です…!」
ぱしっ!
思わず振り払う手。
しかし、彼は素早く私の腕を掴み直した。そして、何かを言いかけるが唇が動くことはなく、もどかしげに眉を寄せる。
すっ。
何も言わずに離れていく手。
拍子抜けしてまばたきをすると、彼は低く呟いた。
「…ごめん。」
それが、その夜、彼と交わした最後の言葉だった。