一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~
スイートルームの夜
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「ごめんって、なに?!追いかけて手ぇ掴むくらいなら、せめて何か言いなさいよ!」
自宅のベッドにダイブした私は、枕に顔を押し付けて大声で叫ぶ。ストレス発散には程遠い。
はぁ、とため息が漏れた瞬間、ぽろり、と頰に涙が伝った。
別に、悲しいんじゃない。言うなれば、悔しいの方が近いだろう。もどかしさや、やるせなさが込み上げて、感情がぐちゃぐちゃになる。
改めて思い知らされた。
体の関係がなかった今、私と樹さんを繋ぐものは本当に何もないのだと。
抱きかけていた恋情が、さらに私の心に追い討ちをかけていく。
結局、彼の本心を聞く間もなかった。初めて会ったホテルの夜の詳細を聞くのが怖かった。突きつけられたのは、真実だけ。
スイートルームを出た今、きっと、俺を好きにならせると息巻いていた彼の熱も冷めたことだろう。
偽恋人なんて、初めから続くはずなどなかったのだ。
(引き止めてくれるって思ったのが恥ずかしい…)
一瞬、甘い期待をした。
ごめんの先に続く言葉が、幸せなものであると思ってしまった。
彼は、本気だなんだと散々私に言ってきたが、直接、好きだとは口に出したことがない。
美香みたいな子が好きという一言を発したことはあるが、あれは美香が好きではないのでノーカンだろう。
好きの二文字さえ言ってくれれば、救われるのに。
迷いなく、彼の腕に飛び込めるのに。