一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~
そんなことを考えても、もう遅い。いくら夢物語を願ったところで現実にはならない、それがこの世の真理というやつだ。
『ーー好きだ』
『ずっと、俺は…お前に惚れてる』
ふいに頭をよぎる瀬戸の声。
あれだけまっすぐ言ってくれればいいのに、なんて、樹さんと一瞬比べてしまった自分に罪悪感がこみ上げる。
『本気じゃないならやめとけよ。お前が御曹司サマと釣り合うわけがないんだからさ。』
結局、瀬戸の言った通りになった。…きっと、これは悪い夢だ。神様がほんの気まぐれで起こしたイベントに過ぎない。
時が来れば、シンデレラも魔法が解ける。
灰かぶりに戻っただけ。
ただ、それだけだ。
結局、その後は一睡もできなかった。
シャワーだけ浴びた後、腫れた瞳とクマをメイクで必死に隠し、新しいシャツを着た。
“なんてブサイクなんでしょう…!”
もし、私が動物園で飼われた珍獣だったとしたら、リポートに来たアナウンサーにこう言われていたに違いない。
二ヶ月ぶりの電車出勤。思い出す満員電車の苦しみ。慣れていたはずの通勤ラッシュは、今の私には酷すぎた。
清々しいはずの朝が辛い。まるでドラキュラにでもなった気分である。眩しいほどの朝日が私を照らし、このままじゃ、砂になって消えてしまいそうだ。
(…いっそ、消えた方が楽かも……)
やがてランコントルホテルに辿り着き、平然を装って裏口から入った。仕事となれば、気持ちを切り替えて働かなくては。
と、深呼吸をしていると、上司が私の名を呼んだ。
「あ!桜庭さん。今日、朝一で応接室に掃除入ってくれる?」
「はい。…応援室ですか?」
「あぁ。今朝、急遽、如月恭介のインタビューで貸し出すことになったんだよ。」
(え?)