一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~


「…で?わざわざ押しかけるなんて、俺に何の用だ?」


樹さんは、眉を寄せて彼に問う。すると、その言葉に椿は「言っただろ?迎えに来た、って。」と答え、わずかにまつ毛を伏せた。


「社長がお呼びだ。今すぐ顔を出せ、ってさ。」


「…!」


樹さんの顔が、ふっ、と変わった。真剣だが、どこか冷めたような瞳が色をなくしていく。見たこともない表情だ。

社長とは、久我ホールディングスの社長のことだろう。つまり、樹さんの父親ということになる。

すると、樹さんはさらりと答えた。


「断る。今は美香といる方が大事だから。」


「そういうことをするから、あの人の逆鱗に触れるんだよ。ただでさえ樹は目をつけられてるんだからさ。」


(目をつけられている…?)


それは、期待を寄せられている、や、後継者として認められている、というようなニュアンスではなかった。

椿の言葉にきょとん、とすると、椿は私をちらり、と見て呟く。


「まさか、何も知らないのか?樹は……」


「椿。」


何かを言いかけた椿を、低い声が制した。

すっ、と私の方へ屈んだ樹さんは、ふわりと私を撫でて告げる。


「ごめん。また、時間は作るから。」


「…!は、はい…」


わずかに纏う雰囲気が変わったことは私でも分かったが、その理由を問う前に彼は椿を連れて背を向けた。

そして、名残惜しそうに部屋を出て行く。

その背中がドアの向こうに消える間際。ちらり、と私を見つめる椿の横顔が見えたのだった。

< 134 / 186 >

この作品をシェア

pagetop