一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~

つい驚いて声を上げる。電話の相手を知った唯と如月さんも、目を丸くした。

すると、樹さんの側近である彼は、いつものクールな口調で言葉を続ける。


『久我マネージャーから全てを聞きました。今、どこにいらっしゃるんです?』


「えっと…、私は仕事が入っていたのでランコントルホテルにいます。…桐生さんはどちらに?」


『成田空港です。久我マネージャーとともに渡米することになりましたので…まぁ、私の出立は一週間後ですが、今日は彼の見送りで。』


(嘘…ッ!!)


さすが樹さんの右腕だ。ロサンゼルス支部でも彼に仕えて働くらしい。

それにしても、こんな急に転勤を言い渡されたのに、彼は動揺の一つも見せない。プライベートが謎に包まれた完璧秘書は、いつ何があっても対応できるよう、それなりに日頃から人間関係の整理などをしているのだろうか。

…心の中では会社に不満が爆発しているのかも知れないが。

その時。静かに桐生さんが呟く。


『桜庭さんは、久我マネージャーにこのまま会わないおつもりですか。』


「…!」


どくん、と体が震える。


会いたい。

このまま会えなくなるのなら、最後くらい彼の姿を目に焼き付けておきたい。

だけどきっと、会ったら離れられなくなる。彼の影を追い続ける毎日が、つらくなる。

…と、その時。桐生さんが小さく息を吐いて続けた。


『…まぁ、社長の前であんな交渉をしたんです。見送りなんかしなくても、久我マネージャーと貴方は通じ合っているのでしょうが…』


(…?交渉…?)

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