一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~

「どういうことですか…?」


話が見えず、聞き返す私。

すると、桐生さんは冷静な声でさらり、と信じられないことを口にした。


『久我マネージャーが渡米の交換条件として、桜庭さんとの交際を認めろ、と社長に直談判した話ですよ。』


「え!!」


『…まさか、何も聞いていなかったのですか?』


衝撃が走った。

海外転勤を受け入れる代わりに、私との交際を認めるよう、交渉したの?

あの社長に向かって?

もしかして、残していく私が樹さんの存在に縛られないように、あえて彼は何も言わなかったのだろうか。


“ずるい”


また、私は守られた。

私は、彼に何も返していないのに。

ぎゅうっ、と、スマホを握る手に力がこもる。


「美香…?」


唯が、様子を伺うように私を見た。

揺れていた心が、強く鼓動する。もう、迷いは無い。


「桐生さん。樹さんの出発ゲートはどこですか。」


私の声を聞いた唯と如月さんが、はっ!とした。

電話越しに、桐生さんの声が聞こえる。


『第1ターミナルの南ウイングです。…出来る限り、彼を引き止めておきましょう。』


私の心中を察したような彼は、そう言ってプツリ、と電話を切った。

一呼吸置いた私は、私を見守っていた唯に向かって声をかける。


「ごめん、唯!私……」


すると、全てを言い終わる前に、唯はぽん!と私の肩を叩いた。

にこりと微笑んだ彼女は、力強い声で私の背中を押す。


「行ってきな、美香!あんたの残りの仕事は、私がやっとくから!」


「…!」

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