一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~
「速水の発注ミスとはいえ、最終チェックを通したのは俺です。…俺の責任です。」
森久保さんに頭を下げたのは、瀬戸である。いつもの彼とは違う切羽詰まったような真剣な表情に、事の深刻さが伺えた。
「今日から仕込みを始めないと対応は厳しいですね。なんたって、団体予約ですから。」
料理長の馬場さんが困惑して眉を寄せた。各部門のチーフたちがあれこれと案を出しながら話し合っているが、どうもうまい解決案が決まらないらしい。
速水くんの顔は蒼白で、今にでも死にそうだ。
と、その時。低く艶のある声が辺りに響く。
「森久保。一体、何の騒ぎ?」
コツ…、とその場に現れたのは、漆黒の髪をゆるり、と片耳にかけた樹さんだった。側に立つ桐生さんも、眼鏡の奥の瞳をわずかに細める。
総支配人の姿に、しんっ…!と静まり返る事務室。
すると、チーフ達の机に置かれた資料を、すっ、と手に取った樹さんは、静かにまつげを伏せて呟いた。
「納品日、六月七日…。なるほどね、これで揉めてたんだ。明日の立食パーティーだよね?」
彼に問われ、状況を冷静に報告する森久保さん。頭を下げる瀬戸と速水くんも、何やら話し込んでいるようだ。