一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~


「……。」


無言で目を細めた樹さんは、コツコツ、と一人歩き出し、そのままマネージャー室へと入っていった。

バタン、と閉まる扉。

重苦しい空気がさらに冷たいものになり、誰一人として発言する者はいない。

と、その時。

緊張感が高まる中、数分後、ガチャ、と部屋の扉が開いた。その手には、企業提携を結んだ会社の名刺ファイル。


(…!)


一同が目を見開いた瞬間、樹さんは、顔色一つ変えずに言い切った。


「肉のブランドを近江牛から松坂牛に変える。発注先も手配したから、今からいうことよく聞いて。」


コツコツとデスクに戻ってきた彼は、各部門のチーフたちに細かく指示を飛ばしていく。


「まず、馬場はキッチンスタッフ、ソムリエと一緒にメニュー変更に伴う仕込みの調整。必要な調味料があれば、俺のパソコンにまとめてメールして。森久保は、そのまま明日の謝恩会の準備を頼む。」


カリカリ、とボールペンが紙を滑る音が響いた。


「三週間後に届くことになった肉は、そのまま使う。ランコントルホテルで、肉料理をメインにしたバイキング形式のビュッフェを開こう。幸い、三週間後は休日だ。普段ホテルに足を運ばないファミリー層をターゲットにするから、値段は比較的安価に設定して。案がまとまり次第広報のSNSで拡散し、集客をはかる。」


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