一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~
唯が、ほぅとため息をつきながら言った。
「そういえば今日、“あの”久我さんも来るらしいね。…ま。たぶん、私たちみたいな末端のハウスキーパーは会えないだろうけど。」
ーー久我さん。
それは、世界を股にかける久我ホールディングスの若き御曹司だ。
久我ホールディングスのビジネスは多岐にわたり、お酒や食品などの海外マーケティングから、国内のホテル、レストラン事業などを幅広く扱っている。
もちろん、ランコントルホテルもスターホールもその傘下で、御曹司である久我 樹(くが いつき)は、当ホテルの総支配人だ。
その甘いマスクとクールな性格とのギャップに女性ファンも多く、女性誌などで特集を組まれれば、即日完売、更に重版。
しかも、二十九歳という若さで総支配人を任されたのは、単にコネや親の七光りなどではない。語学が堪能で頭脳明晰な彼は、次々と大きなプレゼンで成功を収め、狙った企画ですべて結果を出してきた。
つまり、世間からカリスマ御曹司と呼ばれファンクラブまでできているのが頷けるほど、容姿もスペックも非の打ち所がない完璧人間なのである。
凡人の私からすれば、雲の上の人。
唯一の接点といえば、ホテルに就職するときの面接でチラッと会ったくらいだ。今では、緊張で何を喋ったのかも覚えていないが。
「さ。ホールに入れない私たちは、いつも通り仕事をしましょ。」
「そうだね。」
唯と別れて従業員の廊下を進んだ。
数時間後にとんでもない大事件が待ち受けているなんて。
この時は少しも想像していなかったのだ。