一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~

どきん…!


胸の奥がざわめいた。

彼は、惑わしているだけ。成り行きで偽恋人になった私に、気まぐれで構っているだけ。

こんなことになって、すごく混乱してる。振り回されて、どうしようもなく悔しい。


でも、嫌じゃない。


そんな自分が、一番納得出来ない。


「…んで…」


「…?」


「なんで私、覚えてないんだろう……」


無意識のうちに、言葉が溢れた。

はっ、として動きを止める彼は、私を見つめる。


お酒に酔っていたとはいえ、初めての夜。

あんな豪華なホテルで樹さんに抱きしめられて彼に触れられて、彼の熱を感じたはずなのに。微かに脳裏によぎるのは一回かわされたキスだけ。

意識が飛ぶほど酔っ払った罰なのだろうか。あの時は、こんなに彼に惹かれるなんて思っていなかった。

今では、初めての夜を過ごしたのが彼で良かった、なんて思うほどに、好きになっている。


(せめて、気持ちを自覚した後なら良かったのに。)


「…私も…私も、全部、覚えてたかった……」


「!」


樹さんが瞳を揺らした。

しぃん、と静まり返る部屋。

二人の呼吸以外、何も聞こえない。

彼が、もどかしそうに眉を寄せる。


「…それはずるいでしょ…」


「え…?」


ぎゅうっ…!


ふいに、強く抱きしめられた。愛しさが溢れたようなその仕草に戸惑う。

…と、するり、とブラウスの中に侵入してくる手。

現実に引き戻され、慌てて声を上げる。


「ちょ、ちょっと!樹さん!」


「…だめ?」


「だめです!病人が何やってるんですか!」

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