一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~

すっ!


突然、掴みかけたグラスを誰かに奪われた。

視界から消えゆく酒を目で追うと、ネクタイを緩めた同期の彼が、注がれたビールをぐいっ!と飲み干す。

思わず目を見開いた瞬間、カン!と空のグラスをテーブルに置いた彼が、目の前の男性たちに向かってニヤリ、と笑った。


「飲み比べなら俺が付き合いますよ。こいつ、酔っ払うと酒癖悪いんで。」


「っ!」


誰が、酒癖悪いって?!

そんな反論が一瞬頭をよぎるが、私は何も言えなかった。


「…あ、あの、瀬戸…っ」


「あー、悪い。これ、お前のグラスだったな。」


「そうじゃなくて…!」


くしゃ…!


一瞬だけ撫でられる頭。

決して樹さんはしないような、少し乱暴な触り方。


「三嶋が戻ってきたらあっち行ってろ。」


ぼそり、と素早く告げられた言葉に、はっ、とした。

“庇ってくれた”

その事実だけが、私の胸にすとん、と落ちる。

ドサ、とやや強引に私の隣に腰を下ろした瀬戸。さすが営業部と唸るほどの笑みとトークでたちまち上司たちの機嫌も良くなったようだ。みんな、わいわいと酒を頼み始める。

何事もなかったかのようにニコニコと談笑する瀬戸は、こちらを見ようとしなかった。


ーーあれ?そういえば…

瀬戸ってお酒強いんだっけ…?


ふと、唯と三人で行った飲み会の記憶を思い返してみるが、蘇るのは、死んだように机に突っ伏す彼の姿だけだった。

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