一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~
微かに笑みを浮かべた彼は、小さく息を吐いて、ぽつり、と呟く。
「桜庭は、気分晴れたか?」
「…!うん、ありがとうね。飲み会とか久しぶりだったから、楽しかった。」
「そうか…」
心なしかほっ、としたような声。彼なりに気にしてくれていたのだろう。分かりにくいけど、優しい同期だ。
そういえば、私はちゃんと彼に伝えていなかった。
「瀬戸、イベントお疲れ様。ホールを仕切ってたんでしょう?すごいね、尊敬する。」
「あー、別に俺は何もしてないけどな。終わってホッとした。一時はどうなるかと思ったから。」
確かに、ビュッフェは急遽決まったイベントだった。成功までにはたくさんの人の苦労と努力があったはずだ。
「瀬戸はこの前の謝恩会も、先方に謝罪に行ったんだよね?」
「まぁ、速水の件は俺のミスだからな。」
「でも、ちゃんと全部のイベントをやり切ったのはすごいよ。カッコいいと思う。」
同期として誇らしい。そんなイントネーションだった。
…が、その時。私が言葉を続ける前に、ふと瀬戸の動きが止まり、無意識に出たような声が静かな車内に響く。
「久我さんよりも?」
(え?)
はっ、として言葉を詰まらせると、窓の外を見つめる瀬戸が、ぽつり、と呟いた。
「謝恩会とビュッフェが成功したのは素直に嬉しい。…けど、俺はあの人にだけは借りを作りたくなかった。」
“あの人”
それが樹さんを指していることは、何となくわかった。
上司に迷惑をかけたくなかったということか?仕事でやらかしたミスは自分で取り返したかったということか?
だが、含みのあるような彼の言葉は、それだけではないような気がした。
「どういうこと…?」
「俺の安いプライドとつまらない嫉妬。…いーよ、忘れろ。」