一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~
それから、瀬戸は再び目を閉じた。言葉を交わすことなく、タクシーのメーターだけが動いていく。
やがて、伝えた住所の近くまでやってきた。交差点を進み大通りを抜けると、閑静な住宅街に入る。辺りはもう真っ暗で、時計の針は午後11時過ぎを指していた。
『お客さん、場所はこの辺ですか?』
「あぁ、えっと。そこの路地を右に入ったら停めてください。」
すやすやと眠る瀬戸に代わり、聞いていた住所を伝える私。キキ…ッ、と停まった先に見えたのは、割と綺麗めなアパートだった。築年数は経っているようだが、外装はしっかりしている。
「起きて、瀬戸。着いたよ。」
ゆり起こすと、瀬戸はふわふわしながらカバンを漁り、トン、と私にお札を渡した。印刷された“樋口”と目があう。
「えっ、な、なんで?」
「先に降りるからってお前に払わせるわけにはいかないだろ。」
「でも、多いよ?」
「ホテルまで帰る分入れたら足りるだろ。…残りは、やるよ。」
この人、本当に瀬戸?
瀬戸はもともと律儀な男だったが、飲み会もいつも割り勘だったし、何かを奢ってもらうことなんてなかった。もちろん、こんな無条件に“お釣りをあげる”だなんて言われたこともない。
単に酔っ払っているだけ?
戸惑う私をよそに、「じゃーな。」と、ふらり、とタクシーを降りる彼。しかし、ぽーっ、とした様子で足取りがおぼつかない。
(…っ、不安すぎる…)
「すみません、少しの間待っていてもらえませんか。」
『はいよー。メーター止めときますねー。』
気前のいいおじさんに声をかけ、私は急いでタクシーを降りた。